理念を社員に浸透させる、小さな会社の毎日の習慣

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朝礼で理念を読み上げている。壁にも貼ってある。それでも現場の判断はバラバラ——そんなご相談をよくいただきます。

中小企業庁の調査では、経営理念を理解している従業員がいる企業は8割を超えています。ところが、理念が自律的な行動に結びついている企業は5割を下回るとのこと。

差を生むのは研修の回数ではありません。日々のやり取りの中で、理念が顔を出す回数です。

この記事でわかること

  • 理念を「判断の問い」に言い換える方法
  • 定例の最初の3分で、理念が出た場面を共有するやり方
  • 決めた理由を書き残して、自社の判断事例集をつくる手順
目次

結論:理念は「伝える」より「毎日ふれる」で浸透する

先に結論をお伝えします。理念が浸透している会社がやっているのは、特別な研修ではなく日常の会話でした。

2022年版の中小企業白書によると、理念が全社的に浸透している企業の5割以上が「日々のコミュニケーションによる啓もう」に取り組んでいます。

経営者からのメッセージ発信を重視する割合も、浸透している企業ほど高い傾向。研修の有無ではなく、日常の接点の多さが分かれ目になっています。

つまり必要なのは、立派な仕組みより接触の頻度。この記事では、小さな会社が明日から始められる5つの習慣と、自社を確かめる質問をまとめました。

よくある悩み:理念を掲げたのに、現場が動かない

多くの会社が、同じところで止まります。掲げること自体はできているのに、使う場面がないという状態です。

ご相談でよく聞くのは、次のような声。

  • 朝礼で読み上げているが、誰も内容を覚えていない
  • 中途入社の社員に、言葉の背景が伝わらない
  • 判断に迷ったとき、理念ではなく「前例」で決めてしまう
  • 社長が理念を語ると説教に聞こえ、かえって距離ができる

原因は言葉の出来ではありません。理念と、現場の具体的な判断がつながっていないことにあります。

理解はできる。けれど、自分の仕事にどう効くのかが見えない。ここが本当の壁です。

白書でも、理念が全社的に浸透している企業ほど、2015年から2021年の労働生産性の上昇幅が大きいという結果が出ています。

ただし、これは相関を示すもの。「理念を貼れば儲かる」という話ではなく、判断が揃っているチームは手戻りが少ない、という理解が実態に近いはずです。

掲載社長の実例:株式会社Withが「一枚岩」をつくる方法

制度ではなく会話で判断を揃えている会社があります。Rootsに登場した株式会社With 代表取締役の秋枝紗由里さんの例を見てみましょう。

Withはスタッフの約9割が、育児や家庭の事情を抱える女性です。働く時間も場所もそろっていないチーム。

小さい会社だからこそ、一枚岩になっていないと前へ進めません

秋枝紗由里さん(株式会社With)

では、どうやって一枚岩にするか。秋枝さんが挙げたのは、話し合いの中身でした。

なぜ嫌なのか、なぜ今は待ってほしいのかを、きちんと話し合えることが大事だと思っています

秋枝紗由里さん(株式会社With)

理念を唱えるのではなく、一つひとつの判断の理由を言葉にする。それが積み重なって、共通の判断軸になっていきます。

Withの原点にも、同じ考え方が流れています。別のインタビューで、秋枝さんはこう語りました。

できないから諦めるのではなく、どうしたらできるのかを考え

秋枝紗由里さん(株式会社With)

この一文が、Withの理念そのもの。「できない」という言葉が出た場面で毎回この問いを立てるから、言葉が生きた基準として働きます。

接触の「回数」に注目している経営者もいます。株式会社エグゼマッチ 代表取締役の猪谷進介さんです。

重視しているのは、1回の会話の長さよりも回数。

猪谷進介さん(株式会社エグゼマッチ)

長い面談を年2回やるより、短い会話を毎週重ねる。理念の浸透にも、この考え方はそのまま当てはまります。

ほかの会社が真似する5つの手順

ここからは、人数の少ない会社でも回る手順に落とします。1から順に進めてください。

  1. 理念を「判断の問い」に言い換える
  2. 定例の最初の3分を「理念が出た場面」の共有にあてる
  3. 決定とセットで「決めた理由」を書き残す
  4. 入社時に「歓迎される行動/困る行動」を具体例で渡す
  5. 半年に一度、理念と現実のズレを棚卸しする

1. 理念を「判断の問い」に言い換える

ポイント:理念は文章ではなく、迷ったときに立てる問いの形にする。

「お客様第一」のままでは現場で使えません。「これはお客様が次も頼みたくなる進め方か?」と問いに変えると、判断に使えるようになります。

A4一枚に、問いは3つまで。多すぎると誰も覚えません。

言い換えの作業は、社長ひとりでやらないほうが早い。社員2〜3人と「最近いちばん迷った判断」を出し合うと、自社に必要な問いが見つかります。

2. 定例の最初の3分を「理念が出た場面」の共有にあてる

ポイント:抽象論を語らず、先週あった具体例を1つだけ出す。

社長が「こういう判断をした、理由はこれ」と話す。社員が「こう対応した」と話す。どちらでもかまいません。

白書でも、浸透している企業ほど経営者からの積極的な発信を重視していました。ただし、長く話さないのがコツ。

3. 決定とセットで「決めた理由」を書き残す

ポイント:結論だけ共有すると、判断軸は伝わらない。

ツールはチャットでも表計算でも構いません。「決めたこと」の横に「なぜそう決めたか」を一行添えます。

半年たつと、それが自社の判断事例集になります。中途入社の人がいちばん早く理念を飲み込める資料にもなるはず。

書く量は一行で十分。「値引きを断った:長く付き合う取引先に不公平になるから」くらいの粒度で残します。

4. 入社時に「歓迎される行動/困る行動」を具体例で渡す

ポイント:理念の説明ではなく、行動の例で渡す。

「納期が危ないと分かった時点で早めに言う人は歓迎」「黙って抱えるのは困る」。このくらい具体的に書きます。

理念カードを配るより、こちらのほうが早く伝わります。

5. 半年に一度、理念と現実のズレを棚卸しする

ポイント:守れていないことを放置すると、理念そのものが軽くなる。

「掲げているが実際はできていないこと」を、社長が先に挙げる。そのうえで、直すのか、掲げ方を変えるのかを決めます。

理念を見直した経験がある企業ほど、経営戦略との整合性を重視しているという調査結果も出ています。

自社で確かめる5つの質問

手順を始める前に、現状を確かめておきましょう。「いいえ」が3つ以上つくなら、手順1から着手するのが早道です。

  • 理念を、社員が自分の言葉で言い換えられますか
  • 直近1か月で、理念にふれた会話が社内でありましたか
  • 大きな決定について、「なぜそう決めたか」が残っていますか
  • 入社半年以内の人に、判断の基準が伝わっていますか
  • 掲げているのに守れていない項目を、社長自身が把握していますか

関連コラムもあわせてどうぞ。判断を人に任せていく手順は社員10人の壁:社長がやらなくていい仕事の手放し方にまとめています。

会話そのものの進め方は1on1より効く「15分の雑談」の進め方をご覧ください。

まとめ

理念の浸透は、言葉を磨く作業ではなく、言葉を使う回数を増やす作業です。

立派な研修を組む前に、次の定例の冒頭3分を「先週、理念が出た場面」の共有にあててみてください。

一度で空気が変わることはありません。それでも、判断の理由を言葉にする会話が月に数回続けば、半年後には社員の口から同じ基準が出てくるようになります。

小さな会社だからこそ、社長の一言が届く距離は近い。その近さを、いちばんの資産として使っていきましょう。

出典

R

この記事を書いた人

Roots編集部(株式会社With)

中小企業の経営者インタビューを続ける編集部。取材で聞いた経営者の実践を、ほかの会社でも使える形にまとめています。

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