生成AIでメール作成や資料づくりを速くしたい。そう思って使い始めたのに、出てきた文章を直す時間のほうが長かった、という声をよく聞きます。
つまずく原因は、使い方よりも「頼み方」にあります。文章を丸ごと書かせると、直しが増えるだけ。
この記事では、社長のメールと資料づくりを半分の時間にする頼み方を手順で整理しました。入力してはいけない情報と、社内で決めておくことも示します。
この記事でわかること
- 生成AIで短くできるのは「ゼロから書く時間」だということ
- 過去メール3通から自分の文体の型をつくる3ステップ
- 入力してはいけない情報と、紙1枚で足りる社内ルール
結論:生成AIで減るのは「ゼロから書く時間」
先に結論から書きます。生成AIが得意なのは、白紙を埋める作業です。
逆に、判断や相手への配慮は人が決めるところ。ここを任せようとすると、かえって手間が増えます。
だから狙うのは「0→60点までをAI、60→100点を自分」という分け方。この形にすると、メール1本にかかる時間はかなり短くなります。
ポイント:AIに書かせるのではなく、たたき台を出させる。
- 宛名・敬語・定型文の組み立て → AIが速い
- 断る・値上げを伝える・社員に注意する → 社長が決める
- 数字や事実の確認 → 必ず人が目を通す
生成AIそのものの入口は、Rootsの別記事小さな会社の生成AI、最初の3つの使い道にまとめてあります。
なぜ社長のメール・資料づくりは終わらないのか
多くの会社が同じところで止まっています。理由は3つに分けられます。
- 毎回ゼロから書いている。似たような返信を、そのたびに一から考えていませんか
- 宛先ごとに文体を切り替えている。取引先・社員・金融機関で書き分けると、頭の切り替えに時間を取られます
- 資料づくりで「構成」と「中身」を同時に考えている。作りながら話の順番も決めると、何度も作り直すことになりがち
生成AIを使う会社そのものは、もう珍しくありません。
総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%でした(n=477)。
いっぽうで同じ白書は、業務変革への組織的な取り組みが「ない」とする割合が、日本で他国より高いことも示しています。
使ってはいるが、会社の仕組みになっていない。ここが分かれ目です。
メールと資料を半分にする手順
ここからが実際の手順です。メール、資料、社内の決めごとの順に進めます。
メール:3ステップで「型」を1度だけ作る
ステップ1:よく書くメールを5種類書き出す
まず、自分が月に何度も書くメールを5つ選びます。見積の送付、日程調整、お断りの連絡、紹介のお礼、請求のご案内あたりが多いはず。
ステップ2:過去の自分のメールを3通、AIに読ませる
次に、その種類ごとに過去のメールを3通貼り付けます。「この3通から、私の書き方の特徴を箇条書きにして」と頼んでください。
ここで出てくるのが、自分の文体の説明書です。「結論を先に書く」「改行が多い」などが、短い言葉になって返ってきます。
ステップ3:説明書を添えて、たたき台を3案出させる
あとは、その説明書と要点を渡すだけ。「次の条件でメールのたたき台を3案。私の書き方の特徴に合わせて」と伝えます。
3案にするのがコツです。1案だと直しに引っ張られますが、3案あれば選んで混ぜられる。
この説明書は1度作れば使い回せます。2通目からは、要点を箇条書きで渡すだけで済みます。
資料:構成だけをAIに出させる
資料づくりは、構成と中身を分けると速くなります。順番は次のとおり。
| 手順 | やること | AIに渡すもの |
|---|---|---|
| 1 | 目的と相手を1行で決める | 誰に・何を決めてほしいか |
| 2 | 構成案を3パターン出させる | 目的・相手・話す時間 |
| 3 | 構成を自分で選んで直す | (ここは人がやる) |
| 4 | 各ページの見出しと骨子を出させる | 選んだ構成 |
| 5 | 数字・自社の事例を自分で入れる | (ここは人がやる) |
手放さないでほしいのは3と5です。構成と数字は会社の中身そのもので、外から埋めてもらえません。
逆に1・2・4は、毎回ゼロから考える必要がない部分。ここを渡すだけでも、資料1本の立ち上がりは目に見えて軽くなります。
入力してはいけない情報を先に決める
ここだけは急がないでください。個人情報や未公開の数字を、そのまま入力するのは避けます。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています。個人情報を含む内容を入力するときの取り扱いには、注意が必要とされています。
国としての考え方は、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」にまとまっています。社内ルールを作る前に、一度目を通しておくと土台になります。
最低限の社内ルールは、紙1枚で足ります
- 社員・取引先の氏名、連絡先、個人が特定できる内容は入れない
- 未公開の売上・原価・見積金額は入れない
- 入力してよい情報の例を、3つだけ書いておく
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」/総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」
有料プランでは、入力した内容を学習に使わない設定を選べるサービスもあります。本格的に社内で使うなら、契約前にその項目を確認してください。
掲載社長の実例:空いた時間を何に向けるか
時間が空いたあと、それを何に使うか。ここで差がつきます。
株式会社エグゼマッチ 代表の猪谷進介さんは、Rootsのインタビューで会社員時代をこう振り返っていました。
私自身、朝5時まで働き続け、体調を崩す寸前で会社を辞めた経験があります。
猪谷進介さん(株式会社エグゼマッチ)
いまは27名の業務委託メンバーと仕事をしています。猪谷さんが大切にしているのは、会話の長さではありません。
重視しているのは、1回の会話の長さよりも回数。
猪谷進介さん(株式会社エグゼマッチ)
メールや資料づくりで浮いた30分を、この「回数」に回す。文章を速くする目的は、人と話す時間を取り戻すことにあります。
インタビュー全文はこちら
もう一つ。株式会社With 代表の秋枝紗由里さんは、人に任せることの重さをこう話していました。
でも、人にお願いするとなると、資金繰りも人間関係も、組織としての運営も必要になります
秋枝紗由里さん(株式会社With)
資金繰りも人間関係も、AIは代わってくれません。だからこそ、社長が手を動かさなくてよい文章仕事から先に渡していく。
小さい会社だからこそ、一枚岩になっていないと前へ進めません。なぜ嫌なのか、なぜ今は待ってほしいのかを、きちんと話し合えることが大事だと思っています
秋枝紗由里さん(株式会社With)
話し合う時間は、放っておいても生まれません。メール1本を5分短くすることは、その時間をつくる作業の一部です。
インタビュー全文はこちら
よくある質問
導入のときによく出る質問を4つ挙げます。
Q. 無料のままで足りますか
試す段階なら足ります。社内で本格的に使うなら、入力内容を学習に使わない設定があるプランを選んでください。
Q. 文章が「AIっぽい」と言われます
過去メールを読ませる工程を飛ばしている可能性が高いです。文体の説明書を一度作れば、同じ指示をずっと使い回せます。
Q. 社員にはどう広げればいいですか
社長が自分の仕事で先に使い、うまくいった頼み方を1つだけ共有するのが早道。いきなり全社ルールから入ると、だいたい止まります。
Q. 議事録や会議メモにも使えますか
使えます。進め方はRootsの別記事議事録はAIに任せる:小さな会社の会議記録の仕組みで整理しました。
まとめ
まず今週、月に何度も書いているメールを5種類だけ書き出してみてください。そのうち1つを選び、過去のメール3通から「文体の説明書」を作ってみる。
速く書くこと自体が目的ではありません。浮いた30分を、社員や取引先と話す時間に回してください。
小さな一歩から、チームとの距離は近づいていきます。
出典
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表):本文/概要(PDF)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」
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