転勤、妊娠・出産、育児。能力や意欲があっても、環境によって仕事を続けられなくなる女性は少なくありません。
株式会社Withの歩みは、代表取締役の秋枝紗由里さんが自ら直面した「働きたくても働けない」という課題から始まりました。経営を学んで起業したわけではなく、必要に迫られて選んだ独立。その先で待っていたのは、資金繰りや組織づくり、家庭との両立という壁でした。秋枝さんの原点と、経営者として重ねてきた苦労をたどります。
新しい環境へ飛び込むことを恐れなかった幼少期
秋枝さんは宮崎県で生まれ、鹿児島県で育ちました。3人きょうだいの長女。幼い頃から独立心が強かったと振り返ります。
小学生の頃からリーダーシップ研修などに参加し、全国各地へ一人で出かけることも。参加を提案したのは母親でしたが、最終的に「行く」と決めたのは自分自身でした。
高校生になる頃には、家族から「今どこで、何をしているのだろう」と言われるほどでした。自ら新しい場所へ飛び込んでいたといいます。
父親が転勤の多い仕事だったため、学校が変わることも珍しくありませんでした。そのたびに初対面の人ばかりのコミュニティで人間関係を一からつくる。
「ゼロベースで関係性を築いたり、初めましてのコミュニティに飛び込んだりすることは、比較的得意でした」
この経験が、さまざまな環境にいる人とチームをつくる土台になっています。
デザインの現場で身につけた、たたき上げの力
高校卒業後はデザイン系の専門学校への進学を希望していました。
しかし母親から「デザインで食べていけるのか」と言われたことをきっかけに、進学ではなく印刷会社への就職を選びます。
知識も経験もないところから、現場でDTPを学ぶ日々。たたき上げで技術を身につけ、印刷物のコンテストで賞を受賞しました。
その後は広告代理店のデザイン部へ移り、グラフィックデザイナーとして働きます。
もともと紙や用紙が好きで、印刷に関わる仕事をしたいという思いがありました。一方で当時の業界は働き方が厳しく、身体を壊したこともあったそうです。
次に選んだのは、鹿児島の和菓子店の店長。接客コンテストで九州大会まで進出するなど、デザインに限らず接客や店舗運営、業務改善、マネジメントにも携わりました。
一見すると畑違いの仕事。そこで積み重ねた経験がいまの企業サポートや組織運営につながっています。
転勤族の妻になり、「雇われる」以外の道を選ぶ
結婚後、夫が転勤のある仕事だったため外へ働きに出ることが難しくなりました。
採用の場で「転勤族の奥さんなら、すぐに辞めるのではないか」と見られることもあったといいます。
どれだけ働きたいと思っても、家庭の事情で雇用という選択肢が狭くなってしまう。そこで秋枝さんが選んだのが独立でした。
デザインのスキルに加え、業務効率化やマネジメントの経験も生かします。約14〜15年前に個人事業主として仕事を始めました。
リモートワークがまだ一般的ではなかった時代のこと。それでも「業務委託で、ここまでリモート対応してくれるのか」という点が付加価値になり、少しずつ顧客が増えていきました。
「雇用ではなく、業務委託でリモート対応できることを自分の付加価値として売っていました。それが今の仕事の原点だと思います」
妊娠・出産を経て、働けない女性の受け皿をつくる
個人事業主として仕事を続けるなかで、妊娠と出産を経験します。生活の状況が変われば、それまでと同じようには働けません。
同じ頃、周囲にも能力があるのに妊娠や出産をきっかけに仕事を続けられなくなる女性がいると気づきました。
「すごく優秀な人が、妊娠や出産で働けなくなるのはどうなのだろうと考えました。それなら、私が仕事を持ってこようと思ったんです」
その思いから約7年前に法人化します。
現在の柱は「PlusGATE」というコミュニティ。スキルを持つ女性が学び、企業のサポート業務に携われる仕組みです。
スタッフの約9割は、育児や家庭の事情を抱える女性。発達障害や不登校など、さまざまな事情を持つ子どもを育てている母親も多く在籍しています。
売上はあるのに、お金が残らない
顧客が増えるにつれ、秋枝さん一人ですべての業務を担うことが難しくなります。チームで仕事を進めるようになりました。
そこで初めて直面したのが、「個人で仕事をすること」と「会社を経営すること」の違いです。とくに苦労したのは、単価設定と資金繰りでした。
一人で仕事をしていた頃は、自分が働いた分をそのまま報酬として受け取れます。ところが人に仕事を依頼するとなると、外注費や雇用コスト、管理にかかる時間まで考えなくてはなりません。
「すごく働いてお金も入っているはずなのに、全部出ていくな、という時期がありました」
自分が受注していた頃の単価感のまま外部スタッフへ依頼した結果、売上は立っていても会社に利益が残らない状態になっていたのです。
経営者になるための勉強をしたわけでも、社長になることを目標にしていたわけでもありません。資金繰りも組織運営も、実際に失敗しながら一つずつ学んできました。
人が増えたからこそ生まれた、品質と組織の課題
人に仕事を任せるようになると、品質や効率をどう担保するかという別の課題も生まれます。
スタッフの多くは家庭や子育てなどの事情があり、自宅で働くことを選んでいます。一人ひとりの状況に配慮しながら、企業として一定の品質を保たなければなりません。
「それぞれの事情を鑑みながら組織をつくっていくのは、すごく難しいと感じています」
品質の均一化はいまも課題として残っています。それでも社内マネジメントを担うマネージャーが加わり、秋枝さん一人に集中していた負担は軽くなりました。
「彼女がいなかったら、会社は潰れると思います」
経営について相談し、一緒に考えられる相手がいること。ときには「今は待ったほうがいい」と率直に意見を伝えてくれること。
その存在が組織を支えています。
母、妻、経営者。すべてを担う難しさ
経営を続けるうえで、秋枝さんが何度も直面してきたのが家庭との両立。
母親であり、妻であり、それでいて仕事では一人の経営者として同じ成果を求められます。
男性経営者と同じように交流会や勉強会へ参加したいと思っても、夜は家庭のことがあり簡単には出かけられません。
「全部投げ出したいと思うことは、結構あります。男性経営者と同じように動きたいのに、動けない。
その状況にもどかしさを感じることがあります」
それでも必要な時間をただ求めるのではなく、「何のために参加するのか」「どんな未来につなげたいのか」を言葉にします。家族と話し合うようになりました。
仕事をすることで息子に我慢させているのではないか。そんな迷いを抱える一方で、自分が生き生きと働く姿を見せる意味にも目を向けるようになったといいます。
「仕事の大変さも面白さも、家にいながら見てもらえる。それは一つの経験になるのではないかと、プラスに考えるようになりました」
「できない」を「どうしたらできるか」に変える
株式会社Withが大切にしているのは、「女性だから」「母親だから」「妻だから」と諦めるのではなく、今の環境でどうすれば実現できるかを考えることです。
雇用形態、働き方、仕事の進め方、そして経営のあり方。既存の形に合わせられないから終わりにするのではなく、その人に合う形をつくっていく。
「できないから諦めるのではなく、どうしたらできるのかを考え、できる形に変換していく。それがWithの役目だと思っています」
苦労の末にたどり着いたこの価値観は、いまの組織づくりにどうつながっているのか。
次回は株式会社Withが大切にする理念と、働く人に合わせたチームづくりを紹介します。
編集後記
転勤の多い家庭で育ち、転勤族の妻になった人が、雇われない働き方を選ぶ。読み返すと一本の線でつながっています。
専門学校ではなく印刷会社へ。デザインから和菓子店の店長まで、肩書きは何度も変わりました。
その寄り道が、いまの企業サポートと組織運営の土台になっている。
法人化のきっかけは自分のためだけではありません。優秀な人が妊娠や出産で働けなくなる状況を見たからでした。
いちばん具体的だったのは、売上が立っても利益が残らなかった時期の話。一人で受ける単価感のまま人に頼むと、会社には何も残りません。
経営者になるための勉強をしていたわけではない、と秋枝さんは言います。失敗しながら順番に覚えてきた、という説明でした。
全部投げ出したいと思うことは結構ある。そう言える経営者の言葉のほうが、同じ立場の人には届くはずです。
会社概要
| 会社名 | 株式会社With |
|---|---|
| 代表者名 | 秋枝紗由里さん |
| 設立 | — |
| 所在地 | — |
| 事業内容 | 企業のリモート業務サポート(デザイン・業務効率化・マネジメントなど)、コミュニティ「PlusGATE」の運営 |
| Webサイト | — |
会社情報
- 会社名
- 株式会社With
- 代表者名
- 秋枝紗由里
- 設立
- 2014年(法人化2020年)
- 所在地
- 〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前1丁目23番2号 ParkFront博多駅前1丁目5F-B
- Webサイト
- https://with-corp.info/
- 会社概要
- BPO事業、メディア事業、女性の学びと仕事を支える「PlusGATE」の運営
続けて読む:第2回 理念・組織編
働く人の事情から組織をつくる、Withのチームづくり記事を読む →Rootsの新着をメールで受け取る
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